第30章 ある一つの決着

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 それに淳が、小さく頷いてから答える。 「ああ。付き合い始めたばかりの頃、自分の名前について話をしていた時、色々愚痴ってただろう?」  それを聞いた彼女は、皮肉っぽく肩を竦めながら答えた。 「まあね。両親が色々考えてくれたのは、ちゃんと理解しているけど」 「その時に俺が、何気なく聞いたんだよな? お前が散々愚痴を言った後に、『それならお前が自分の子供に名前を付けるとしたら、どんな名前にするんだ?』って」  それを聞いた美実は、軽く目を見張った。 「……覚えていたの?」 「正直に言うと、今日まですっかり忘れてた。悪い」 「でしょうね。覚えてたら、こんなに長くかかる筈無いもの。それで?」  小さく溜め息を吐いた彼女が先を促すと、淳は真顔で続けた。 「俺の記憶違いで無かったら、こう言ってたと思うんだが。『どんな名前でも良いかと思うけど、どうせなら好きな人から一字貰って付けたいわね。それなら子供の名前を書いたり呼んだりする度に、好きな人との子供なんだっ再認識して、それだけで幸せな気持ちにならない?』って」 「そう言ったら『普段はすました言動をしている癖に、やっぱり女子高生で少女趣味全開だよな』って、鼻で笑った事は覚えている?」 「いや、確かにらしくなく可愛い事を言うなとは思ったが、鼻で笑ったつもりは…………、そう感じたなら悪かった」 「当然よ」  弁解しかけて鋭い視線を向けられた淳は、素直に謝った。それに美実が素っ気なく断言してから、淳が結論を口にする。 「それで、その時の事を思い出したから、この名前にしてみたんだ。お前は俺の事が好きだし、俺の名前は漢字一字だし。読み方を変えるにしても、何か他の字を付けないと、親子で同じになって色々面倒だから」 「『好きだし』って、なんで断言するわけ?」  少々呆れ気味に美実が口を挟んだが、淳はそのまま話を続けた。 「それで淳は『きよし』とか『きよ』とも呼ぶから、それに志を高く持てる様に『志』と、実を結ぶ人生を送れる様に『実』を付けてみた。これでどうだ?」  そう言って真剣な顔で意見を求めてきた淳から僅かに視線を逸らしつつ、美実は呟く様に感想を述べた。 「まあ……、悪くは無いんじゃない?」 「本当か!?」 「うん、これで良いわよ」 「そうか……」
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