第28章 年越しは平穏に

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「そうか……。その、秀明?」 「勿論、毒入り云々なんか、言わないから安心しろ」 「すまん」  小さな重箱の風呂敷包みを取り出しながら秀明が請け負うと、淳が素直に頭を下げた。それに苦笑しながら、秀明は更に中身を取り出す。 「それから、これは美恵ちゃんからだ。……ああ、思った通り、やっぱり酒だな。しかもこんな美味い物、お前には勿体ないぞ」 「五月蝿い」  大き目の風呂敷包みを解いた秀明は、化粧箱に印刷されている銘柄を見て、勿体なさそうに感想を述べた。そして次に、重箱より一回り小さい包みを取り出し、風呂敷を解く。 「それからこれは、美野ちゃんから。小さい割に重かったから……、やっぱり餅か。それとこのタッパーの中身は、雑煮の具だな。ご丁寧に全部切って、後は煮るだけの状態にしてある。冷蔵庫に入れておこう」 「一人だと、買う気がしなかったからな。ありがたく食べさせて貰う」  しっかり出汁や調味料まで小分けにして詰めた上に、レシピの簡単なメモ書きまで付けておいた美野に、男二人は素直に感心した。 「それで、この封筒が美幸ちゃんからなんだが……」  最後にしっかり封をして、住所と名前が記載済みの封筒を紙袋から取り出した秀明は、珍しく戸惑った表情を見せた。それに淳も怪訝な顔で応じる。 「中身は何だ? 随分軽いし、封筒よりもだいぶ小さい物が入っているみたいだが。そもそも食べ物じゃ無いよな?」 「だと思う。だが美幸ちゃんは、今のお前に一番必要な物だと言っていたぞ?」 「一番必要な物? とにかく開けてみるから、ちょっと待ってろ」  そして淳が鋏で封筒の上部を切り取り、慎重に傾けて中身を取り出したが、その掌に収まった物を見て困惑した。 「え?」 「どうして学業成就の御守り?」  互いに戸惑った顔を見合わせた二人だったが、秀明が首を傾げながら、思いついた事を口にした。 「ひょっとして……、美実ちゃんから合格を貰わないといけないから、合格祈願の意味合いでなんだろうか?」  そう言われた淳は、僅かに驚いたように目を見張り、次にじわりと涙ぐみながら頷く。 「おそらくそうだな……。確かに今の俺に、一番必要な物かもしれない。身に着けて持ち歩く事にする。美幸ちゃんに礼を言っておいてくれ」 「ああ」  慎重にお守りを握りしめながら、手の甲で両眼の涙をぬぐっている淳を見て、秀明は思わず舌打ちしそうになった。
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