158人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうか……。その、秀明?」
「勿論、毒入り云々なんか、言わないから安心しろ」
「すまん」
小さな重箱の風呂敷包みを取り出しながら秀明が請け負うと、淳が素直に頭を下げた。それに苦笑しながら、秀明は更に中身を取り出す。
「それから、これは美恵ちゃんからだ。……ああ、思った通り、やっぱり酒だな。しかもこんな美味い物、お前には勿体ないぞ」
「五月蝿い」
大き目の風呂敷包みを解いた秀明は、化粧箱に印刷されている銘柄を見て、勿体なさそうに感想を述べた。そして次に、重箱より一回り小さい包みを取り出し、風呂敷を解く。
「それからこれは、美野ちゃんから。小さい割に重かったから……、やっぱり餅か。それとこのタッパーの中身は、雑煮の具だな。ご丁寧に全部切って、後は煮るだけの状態にしてある。冷蔵庫に入れておこう」
「一人だと、買う気がしなかったからな。ありがたく食べさせて貰う」
しっかり出汁や調味料まで小分けにして詰めた上に、レシピの簡単なメモ書きまで付けておいた美野に、男二人は素直に感心した。
「それで、この封筒が美幸ちゃんからなんだが……」
最後にしっかり封をして、住所と名前が記載済みの封筒を紙袋から取り出した秀明は、珍しく戸惑った表情を見せた。それに淳も怪訝な顔で応じる。
「中身は何だ? 随分軽いし、封筒よりもだいぶ小さい物が入っているみたいだが。そもそも食べ物じゃ無いよな?」
「だと思う。だが美幸ちゃんは、今のお前に一番必要な物だと言っていたぞ?」
「一番必要な物? とにかく開けてみるから、ちょっと待ってろ」
そして淳が鋏で封筒の上部を切り取り、慎重に傾けて中身を取り出したが、その掌に収まった物を見て困惑した。
「え?」
「どうして学業成就の御守り?」
互いに戸惑った顔を見合わせた二人だったが、秀明が首を傾げながら、思いついた事を口にした。
「ひょっとして……、美実ちゃんから合格を貰わないといけないから、合格祈願の意味合いでなんだろうか?」
そう言われた淳は、僅かに驚いたように目を見張り、次にじわりと涙ぐみながら頷く。
「おそらくそうだな……。確かに今の俺に、一番必要な物かもしれない。身に着けて持ち歩く事にする。美幸ちゃんに礼を言っておいてくれ」
「ああ」
慎重にお守りを握りしめながら、手の甲で両眼の涙をぬぐっている淳を見て、秀明は思わず舌打ちしそうになった。
最初のコメントを投稿しよう!