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「口止め料のつもり? だけどもう大晦日だし、お店は閉まっているでしょう? どうやって買ったのよ」
「それはまあ……、それなりに?」
ふてぶてしく笑いながら誤魔化してくる秀明に、美子が益々不快気に顔を顰める。
「美実が年末に差し入れに行くのを見越して、予め買っておいたって事?」
「さあ、どうだろうな?」
そこでも惚けた秀明から、その手に持っている箱に視線を移した美子は、面白くなさそうに確認を入れた。
「これは本当に、私の分だけ買ったんでしょうね?」
「勿論。そうじゃないと、お目こぼしと口止め料の意味がない」
互いに真面目な顔でのやり取りの後、美子は溜め息を吐いて手を伸ばした。
「……しょうがないわね。今回は何も気が付かなかった事にしてあげるわ」
「自分の妻が心優しい女で、俺は嬉しいよ」
くすくす笑いながら箱を渡した秀明に、美子は盛大に顔を顰めた。
「茶化さないで。台所で夕飯の支度をしてるわ。すぐに下りてきなさい」
「了解」
乱暴に箱を戸棚にしまいながらの命令口調での指示にも、秀明は気を悪くする事なく、楽しげに笑いながら妻に頷いた。
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