第29章 解決の糸口

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 突っ伏したまま微動だにしない後輩を心配して、近くの机の森口が歩み寄り、肩を叩きながら声をかけた。それに淳が押し殺した声で反応する。 「今日……、離婚調停の場に出向いてきました」 「ああ、そう言えばそっち担当の連中、今日は何人も休んでたな。専門外の事例で、ちょっと疲れたか?」  そう推測を口にした森口だったが、淳は突っ伏したまま呻く様に続けた。 「世の中、馬鹿が多いとは思っていましたが、俺以上の馬鹿って結構いるんですね……」 「はぁ? お前は馬鹿じゃ無いだろう?」 「馬鹿ですよ。現に女に愛想尽かされかけて、子供ごと他の男に取られそうじゃないですか」  顔を伏せたままぼそぼそと呟いてくる淳に反論できなかった森口は、僅かに顔を引き攣らせつつ、再度穏やかに声をかけた。 「……どうした。いつにもましてネガティブだな。やっぱりお前、精神的に色々来てるぞ? やっぱりさっさと帰った方が良くはないか?」  しかしここで、色々振り切れてしまったらしい淳が勢い良く椅子から立ち上がり、森口に組み付きながら錯乱気味に叫んだ。 「本当に何考えてんだ! 少なくとも一度は惚れ合って結婚して、子供作ったんだろ!? 何が『親戚筋に格好がつかない』だ? ふざけんな! どうせお前らの様な頭スッカスカのカップルなんざ、キャッキャウフフな端から見たら相当恥ずかしくて馬鹿馬鹿しい披露宴盛大にぶちかまして、招待客から巻き上げたご祝儀で、自分達は楽しく過ごしたんだろうが!! 別れるならその時の祝儀を全額きっちり返した上で、一軒ごとに二人揃って出向いて詫びを入れやがれ!」 「うおっ!? ちょっと待て小早川、落ち着け!!」 「分かれる時まで、他人に迷惑かけんなよ!! せめてすっぱり後腐れなく、自分達だけで静かに幕を引きやがれ! しかもちゃんと誕生を祝って、これまで大事に育ててきたんだろ!? その子供の前で、言っていい事と悪い事の区別もつかねえのかアホンダラ!!」 「お前……、一体家裁で何があった……」  宥めるのを半ば諦めながら森口が尋ねてみたが、ここで部長席から梶原が血相を変えて走り寄り、会話に割り込んだ。 「ちょっと待て、小早川! お前、調停の場でそんな事を喚いてきたわけじゃあるまいな!?」 「言うわけありません! 怒鳴りつけたかったですが、我慢しましたよ!! プロですから!」
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