第29章 解決の糸口

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「本当に何なんだよ。仮にも十年以上、夫婦親子としてやってきたんだろ? それがあんなにあっさり『要らない』って言えるなんて……。子供はお前らの玩具やアクセサリーじゃ無いんだぞ? こっちは子供を取られるかどうかの瀬戸際だって言うのに、何であんなろくでなし夫婦の言い分を一から十まで、くそ真面目にに聞かなきゃならないんだ……」 「小早川、気持ちは分かるが」 「それが仕事だからな。しかし『子供を取られるかどうかの瀬戸際』とは穏やかでは無いな。どういう事か説明して貰おうか、小早川君」  困惑しながらも再度後輩を宥めようとした森口だったが、ここで背後からかけられた声に、盛大に顔を引き攣らせながら振り向いた。 「所長。あの……、これはですね」  しかしこの事務所の所長である榊は森口には構わず、梶原に書類を差し出しながら尋ねる。 「梶原君、これを持って来たのだが、その穏やかでは無さそうな事情は、君も把握済みなのか?」 「いえ、全く。小早川?」 「お話しします。実は結婚を考えていた恋人がいたんですが、彼女と去年の夏に顔を合わせた時に……」  そして直属の上司と、職場の最高責任者から揃って鋭い目を向けられた淳は、観念して美実と揉めた内容の一部始終を白状した。 「……今現在は、こんな状況です」 「そんなに前からぐだぐだやってたのか? 弁護士なら他人のトラブルを解決する前に、自分のそれを解決しろ。それ以前に、プライベートで揉めるな」 「部長の仰る通りです」  全てを聞き終えてから渋面になって苦言を呈した梶原に、淳は下手な弁解や反論はせず、大人しく頭を下げた。梶原は困った顔をしながらもそれ以上は言わず、ハラハラしながら様子を見守っていた森口と同様、榊の様子を窺う。  その榊は黙って考え込んでいたが、周囲からの視線を感じたのか、淳に目を向けながら口を開いた。 「言いたい事は色々あるが、梶原君が纏めて言ったので良いとして……。君が考えた名前は、相手にそんなに気に入って貰えないのか? 因みに、どんな名前を考えたんだ?」 「……これです」 「失礼、見せて貰うよ」  不思議そうに榊が尋ねてきた為、淳はポケットから手帳を取り出し、名前を書き連ねたページを開いて差し出した。それを榊が受け取り、梶原も横から覗き込んだが、どちらも無言のまま怪訝な顔付きになる。 「随分と、似たような名前が並んでいるが。何か理由があるのか?」
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