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「彼女の家では、代々『美しい』と書いて『よし』と読ませる名前を付けていまして。因みにこちらに書いてあるのは、彼女の母や祖父、それに加えて叔母や大叔母、大叔父達の名前です。名前が重複しないように書き出しておいたので」
「ほう? そうなのか」
説明しながら淳が榊の手にある手帳のページをめくると、梶原は「良くここまで考えたな」と呆れ顔で呟いたが、榊は尚も不思議そうに尋ねた。
「ところで、その彼女は一人娘なのか?」
「いえ、五人姉妹の三番目です」
「今時、五人姉妹とは凄いな。兄弟はいないと?」
「はい」
「だが一般的に考えて三女なら、彼女が婿を取る可能性は少なそうだが?」
「ええ、現にもう、一番上の姉と結婚した私の友人が、養子縁組して家に入っていますし」
所長はどうしてそんな事を聞くのかと、淳は不思議に思いつつも答えていたが、そんな彼を見ながら榊は事も無げに告げた。
「なんだ。それなら生まれる子供の名前は、別にその家の慣習に従う必要は無いんじゃないか?」
「……え?」
完全に予想外の事を言われた淳が固まっていると、更に榊が尋ねてきた。
「ところで、君の相手の名前は何と言うんだ?」
「『美しい』に『真実』の『実』で、『よしみ』と読みます」
それを聞いた榊は、頭の中でその漢字を思い描いたのか、直後に首を傾げつつ尋ねてきた。
「それだと文字だけ見た初対面の人は、最初から『よしみ』と言わずに『みみ』とか呼ばないだろうか?」
「はぁ……、確かにそういう場合が多いかもしれませんが……」
まだ若干理解が追い付いていない淳が、呆然としながら頷くと、ここで榊はこれまで興味津々で様子を窺っていた、周囲のスタッフ達に声をかけた。
「一つ聞くが、君達は『みみ』と聞いて何を連想する?」
その問いかけに、彼らは互いの顔を見合わせてから口々に意見を述べ始めた。
「『みみ』ですか?やっぱり兎でしょうか?」
「やっぱりそうですよね~」
「私はパンですかね……」
「え? どうしてパンなんですか?」
「パンの耳」
「……なるほど」
「俺はミミズ」
「何でミミズなんですか! ありえませんよ!」
「そうか?」
「私は『はな』でしょうか?」
「どうしてだ?」
「耳と鼻は繋がってますし?」
「ああ、そっちの鼻か。俺は咲く方の花かと思ったぞ」
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