第29章 解決の糸口

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「彼女の家では、代々『美しい』と書いて『よし』と読ませる名前を付けていまして。因みにこちらに書いてあるのは、彼女の母や祖父、それに加えて叔母や大叔母、大叔父達の名前です。名前が重複しないように書き出しておいたので」 「ほう? そうなのか」  説明しながら淳が榊の手にある手帳のページをめくると、梶原は「良くここまで考えたな」と呆れ顔で呟いたが、榊は尚も不思議そうに尋ねた。 「ところで、その彼女は一人娘なのか?」 「いえ、五人姉妹の三番目です」 「今時、五人姉妹とは凄いな。兄弟はいないと?」 「はい」 「だが一般的に考えて三女なら、彼女が婿を取る可能性は少なそうだが?」 「ええ、現にもう、一番上の姉と結婚した私の友人が、養子縁組して家に入っていますし」  所長はどうしてそんな事を聞くのかと、淳は不思議に思いつつも答えていたが、そんな彼を見ながら榊は事も無げに告げた。 「なんだ。それなら生まれる子供の名前は、別にその家の慣習に従う必要は無いんじゃないか?」 「……え?」  完全に予想外の事を言われた淳が固まっていると、更に榊が尋ねてきた。 「ところで、君の相手の名前は何と言うんだ?」 「『美しい』に『真実』の『実』で、『よしみ』と読みます」  それを聞いた榊は、頭の中でその漢字を思い描いたのか、直後に首を傾げつつ尋ねてきた。 「それだと文字だけ見た初対面の人は、最初から『よしみ』と言わずに『みみ』とか呼ばないだろうか?」 「はぁ……、確かにそういう場合が多いかもしれませんが……」  まだ若干理解が追い付いていない淳が、呆然としながら頷くと、ここで榊はこれまで興味津々で様子を窺っていた、周囲のスタッフ達に声をかけた。 「一つ聞くが、君達は『みみ』と聞いて何を連想する?」  その問いかけに、彼らは互いの顔を見合わせてから口々に意見を述べ始めた。 「『みみ』ですか?やっぱり兎でしょうか?」 「やっぱりそうですよね~」 「私はパンですかね……」 「え? どうしてパンなんですか?」 「パンの耳」 「……なるほど」 「俺はミミズ」 「何でミミズなんですか! ありえませんよ!」 「そうか?」 「私は『はな』でしょうか?」 「どうしてだ?」 「耳と鼻は繋がってますし?」 「ああ、そっちの鼻か。俺は咲く方の花かと思ったぞ」
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