第30章 ある一つの決着

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 その日、藤宮家では女性陣だけで夕飯を済ませ、寛いでいた時に、門のインターフォンの呼び出し音が鳴った。 「はい、どちらさまでしょうか? ……はぁ?」 「美子姉さん、どうかしたの?」  来客に応対した姉が変な声を上げた為、美野が不思議そうに尋ねた。すると美子が送話口を押さえながら振り向き、苦々しい口調で告げる。 「門の所に、小早川さんが来ているのよ……。取り敢えず美実を呼んでお茶を淹れるから、あなた達は門を開けて小早川さんを入れて、客間に通しておいて頂戴」 「家に上げるの!?」  美幸が驚いた声を上げたが、それを聞いた美子は不敵に笑った。 「なんだか随分、自信ありげな口調だったしね。玉砕したら叩き出すから、その時は手伝ってね?」 「はい……」 「お出迎えに行って来ます」  そそくさと居間を後にした美野と美幸は、廊下に出てから何とも言い難い顔を見合わせた。 「もう! どうしてこんな時に限って、お父さんもお義兄さんも帰りが遅いのよ!」 「仕方が無いわ。もう、なるようにしかならないわよ」  そして半ば諦めた二人は、これ以上状況が悪化しない様にと切実に願いながら、淳を迎えに出たのだった。 「えっと……、こんばんは」 「ああ、久しぶり」  客間で久しぶりに座卓を挟んで向かい合った二人は、硬い表情で軽く頭を下げた。そんな二人の前にお茶を出した美子は、面白く無さそうに淳に告げる。 「それじゃあ、横で圧力をかけたとか難癖を付けられるのは嫌だし、私は席を外しているから。帰る時は声をかけて頂戴」 「分かりました」  神妙に淳が頭を下げるのを見た美子は、最後にチラリと妹を見てから襖の向こうに消えた。それを確認してから、淳がジャケットのポケットから何かを取り出し、折り畳まれたそれを座卓の上で広げる。 「じゃあ早速、これを見て欲しいんだが」 「何?」 「土曜日じゃないが子供の名前を考えたので、今週分として持って来た」 「それは構わないけど……」  僅かに当惑した顔付きになった美実の前に二枚のレポート用紙を押しやった淳は、そこにマジックで書かれた内容について説明した。 「それで、こっちが男の名前で#淳志__きよし__#。こっちが女の場合の#淳実__きよみ__#だ」  その二枚の用紙を少しの間無表情で眺めた美実が、冷静に問いを発した。 「……どうしてこの名前にしたのか、理由を聞いても良い?」
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