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夏が来る。
じっとりと不快なベタつきを肌に感じながら、僕は先日学校を休んだ分の課題を終わらせていた。平日の放課後なのに、赤い夕陽の差す教室に僕以外誰もいないのは幸いか。
外からは部活に励む運動部の声や、空き教室からは吹奏楽部や軽音部の活動する音がどこか遠くに聞こえる。
友人ならいる、恋人もいる。
たぶん、そこそこリア充。
けれどフツフツと湧き上がる何か物足りなさに、どうしようもない焦燥感が僕を襲う。今にも大声で叫び出したい衝動と、そんな事したらカウンセラー行きだろうなと冷静な自分がぼんやり顔を出す。そして声を出したところで何も変わりなどしないと知っている。
ざらっとした空気が肺の中に入ってきて息が出来ない。苦しい。
そのときだった。
ガラッ
教室にクラスメートが入ってきた。彼女の事は良く知らない。いじめられているわけではないけれど、特別親しい友人も作らず教室の片隅に一人でいるような、どこか浮いた存在だった。
そんな彼女の瞳が僕を真っ直ぐ射抜く。不愉快だ。それでも笑顔を張りつけることは忘れない。
「……どうかした?」
クスッと笑う彼女にゾッとする。
「あのね、聞きたいことがあって」
「僕に?」
「そう、あなたに」
彼女は楽しそうに僕に問い掛ける。
「もし殺されるなら、どうやって死にたい?」
夕陽が彼女を赤く染め上げる。まるで返り血を浴びたように。赤く赤く染まった彼女はとても綺麗で、不覚にも一瞬見惚れてしまった。
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