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「莉音に何かあったのは確実だろう。まさか大学で出会った先輩女性に一目惚れしたとかか?普段から外見に気を遣っていた莉音のことだ。密かに恋に憧れていてもおかしくない」
そんな冷静な指摘をする芳樹の手には今日もカエルの入った小さな水槽があった。3匹いるカエルのうちの一匹が桜太に愛らしい目を向けていて癒されそうなところだが、千晴の鋭い目も視界に入ってしまって効果なしだ。
ずっと莉音に片思いしていた千晴にすれば、一目惚れは重大事件だ。しかも相手は大学の先輩になるかもしれない人となれば余計に困る。太刀打ちするには莉音が卒業するまでに告白しなければならないのだ。
「恋ねえ。俺たちには解決不能な問題だな。まず経験がないし」
亜塔は唸った。ここでしっかり全員を巻き込む辺りがこの男である。否定できないところが悲しいが、誰もが亜塔を睨んでいた。
「まだ恋とは決まってませんよ。先輩、訊き出して下さい」
桜太は亜塔を無視して芳樹を見た。こういう時に頼りになるのは莉音の次に常識が通じる芳樹だろう。
「俺が行こう」
先輩という部分にだけ反応して亜塔が動こうとするのを、芳樹が慌てて止める。
「まあ、ここは俺に任せておけって」
ここでいきなり恋したのかと質問されても困るのだ。芳樹は大事そうに水槽を抱え直すと莉音のもとに向かった。莉音はまだボールペンを見つめたままである。
「なあ、莉音。オープンキャンパスどうだった?俺はもう指定校で決まりそうだから今年は行ってないんだよね」
さりげなく且つ当たり障りのない出だしに二年生全員は芳樹に行ってもらって正解だと頷く。こういう会話から真相を聞き出すのが常道だろう。
「ん?オープンキャンパス?よかったよ」
答えながら莉音はさりげなくボールペンを隠した。これについて訊かれたくないと態度が示している。
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