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「設備はどうだった?」
何とか踏ん張りたい芳樹は会話を続行する。しかし当たり障りのない話を探すうちにおかしくなっている。いきなり大学の名前も聞かずに設備を訊いてどうすると桜太たちは心の中で突っ込んだ。
「そうだな。実験設備はしっかりしていたよ」
莉音はすぐに乗っかった。こういうところはやっぱり変人パラダイスとまで言われる科学部に属する人物だ。設備という単語だけで実験の話になかなかならないだろう。
「やっぱり大学は凄いよな。高価な機材もあるし、色々と環境が整っている」
そこを盛り上げても仕方ないというのに、芳樹はカエルの入った水槽を撫でつつ頷いている。
「そうだな。環境と言えば、やっぱり最前線で活躍している教授がいるっていうのも大きい」
莉音は答えつつ顔が赤くなった。そこにキーワードがあると丸わかりだ。
「相手は先輩ではなく教授?」
「え?そうなると、男か?」
騒然となる遠巻きたちはもう声が抑えられない。ちなみに男という推理は理学部の教授といえばからの発想だ。女性の教授もいるだろうが、莉音が受けるのは確実に物理学科だ。他の学科に比べて女性比率は格段と下がる。下手すればゼロだ。
「憧れの教授でもいるのか?」
芳樹もどぎまぎしながら訊く。まさかここでとんでもないカミングアウトを受けることになるのだろうか。だとすればどう対処すればいいのか。
「そうなんだ。女性ながら活躍する人でさ。その人の研究を知りたくて大学もそこにしようかと考えているんだよ」
莉音は大学の名前をどうにかぼかして言う。そこまで知られたくないのかという突っ込みよりも、周りは女性だったかという安心のほうが大きいので気にしていない。
「へえ。その人は惑星の研究をしているのか?」
何とか更なる情報を引き出そうと芳樹は質問する。
「いや。ちょっと違うな。まあ物理だよ」
莉音はやっぱりはっきり答えなかった。
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