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「なにをしていたんだよ、安藤」
「おせーぞ安藤。グランド十周な」
みんなが口々に安藤に文句を言った。文句を言われても安藤は気にする様子はない。
「野暮用さ」
安藤が練習に来てようやく全員揃った。
三星高校の中で一番サッカーがうまいのは安藤だ。だから背番号も十
番。
身長百八十センチある安藤は部内では竜崎の次に大きい。安藤のドリブルはぎこちないドリブルをする石嶺と違って華麗なステップでするするみんなを抜いていく。僕のヘンテコな方向に行くシュートとは違って綺麗なフォームから華麗で正確なシュートを打つ。それがまた入る。いつも慌てている上野とは違って安藤のプレーには余裕が感じられる。最近ではアンダー18の日本代表候補にまで選ばれている。
安藤は特別な練習をしている、というわけではない。もちろん代表に選ばれてレベルの高い練習をしているけれど、高校一年生の頃は僕らと同じ練習だった。同じ練習量どころか、ときどきさぼったりもしていたくらいだ。それでも安藤は部の中で一番サッカーがうまかった。それはこれまで見てきたサッカーがうまい人達とは明らかに性質が違っていた。お金を払って観るサッカーというのはこういうものなのかもしれない、と僕は感じていた。
「やっぱりあいつがうめぇな」
安藤の正確なパスを見て竜崎が言った。
「うん。トレセンから帰ってきてさらにうまくなっているね」
安藤とは対照的に僕はミスばかりが目立った。簡単なパスミスを何度か繰り返した。
「ジャージしっかり。簡単なミスだぞ」
と竜崎に怒られる。「すまん」と言って練習を続ける。きっと三星高校じゃなかったらキャプテンどころかベンチにも満足に入れなかったと思う。
練習も中盤に差し掛かった頃、監督がやってきた。
「監督がきたぞ」
わざわざ言わなくてもいいのに石嶺が大きな声で言った。僕らは練習を一旦、止めて監督にお疲れ様です、と挨拶をした。どこのメーカーかはわからないポロシャツを着たよぼよぼのおじいちゃん監督は帽子をとって礼をした。この挨拶は監督が来た時に挨拶をする恒例になっている。僕は監督の元へ歩いて向かった。
「変わりはないか」
「はい。ありません」
これが僕と監督の定番の挨拶である。
「そうか。それならわしは帰るぞ。怪我だけはしないように」
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