『ムゲン王と呼ばれた男』

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クロエは拳を突き上げ、黒い靄を頭上に突き上げた。すると、その靄が通った場所の氷が音もなく削り取られる。 そして、クロエが僕を抱え飛び上がる。 クロエが作り上げた氷の通路を通り、氷塊を通り抜けた辺りで、氷塊が地面に着弾した。轟音と共に、土埃が舞い上がる。 クロエはそれを尻目に、空中で身体をひねって、氷塊の上に着地した。 ……素晴らしいな、キミは。 「褒めてくれて何よりじゃ、ナミヒトよ」 クロエが二カリと笑う。良い笑顔だ。 ……ん、待て。 「どうかしたかのナミヒト。我はここで奴らを一気に叩きたいのじゃが」 「……いや、違う。僕が待てと思ったのは、喋らずにクロエと意思疎通が出来たことについてだ」 素晴らしいも待ても、声には出してなかったぞ。 「ん、確かに。……ふうむ、ナミヒトの魂を見てみよう。原因が分かるじゃろう」 クロエが僕を横目でじっと、見て、直ぐに、 「むぅ、やはり初めての吸精じゃったから、下手じゃの……。我の魂の一部が、ナミヒトの魂に混入しておる」 「……大丈夫なのか?」 「我以外の魂なら問題じゃったが、大丈夫じゃ。我の魂はナミヒトの魂に触れ、喜び勇んで同化しておるぞ」 ……同化しているのか。なんだか、むず痒い気持ちだ。 「まぁ我の魂がとてつもなくナミヒトの魂を好いておるから、害を及ぼすことはない。じゃが、これの所為で我とナミヒトとの間でリンクが出来ておる。今の力溢れる我の状態ならば」 魂で対話が出来るじゃのう。 「……君の声を、感じた。聞こえたとかじゃなく、脳裏に現れたように」 クロエはふふん、と笑い、 「脳裏ではなく魂に現れたと言ってくれると嬉しいのぅ。その方が我好みじゃ」 ……魂に現れた。 「くふふっ、ナミヒトはホントに可愛いのぅ」 クロエ心底嬉しそうに笑う。僕に可愛いは似合わないと思うのだが、クロエが嬉しいのならいいだろう。甘んじて受け入れよう。
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