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下を見ると、土埃が立ちこめる中、氷魔法使いがこちらに向かって歩いてきている。
「おっと……。ナミヒトを愛でるのも良いが、まずは奴らを蹴散らすとするかの。さて、このまま上から奇襲でも」
「……待ってくれ。せっかく言葉無く意思疎通が出来るなら、もっと凝った事をしよう」
「ほう、どんなのじゃ?」
僕はクロエに抱きかかえられたまま、顎に手を当て、考える。
「……そうだな。この先も、勝ち続けなければならないのだから」
この勝負の後、彼らはこの勝負の顛末を誰かに語るだろう。その時に、他の者に実力を知られてはいけない。
クロエはともかく、僕はあまりに無力。クロエだけが圧倒し、勝利しても。この先の戦いで僕が弱点とバレたままでは、戦いにくかろう。
「ほうほう、それでそれで」
クロエが氷魔法使いを見下ろしながら、僕の心に相槌を打つ。
……せっかく、クラスメイトのみんなが僕のことを色々と誤解してくれているんだ。誇張して、利用してやろう。
「くふふっ、魂が悪戯っ子のようじゃぞ」
そんな表現は初めて聞いた。魂の付いてはこれから学ばせてもらおう。
それに……。
僕は氷魔法使いの後を追って、走るパイロキネシスを見下ろし、
「……クロエに酷いことを言った彼には、たくさん怖がってもらおうか」
「良い案じゃ。乗った」
「……ここから先は、その都度、魂で指示を出す。合わせてくれ」
クロエが開いた手で僕の頬を撫でながら、
「もちろんじゃ。言われんでも、合わせてみせよう。こうしている間も、ナミヒトの考えていることは激流のようになだれ込み、しかし、理路整然と理解できておる」
「……僕は、流れ込んでは来ないのだが」
「まぁナミヒトは人間じゃからな。受信は出来ても送信はできんじゃろう。このテレパシーもどきはあくまで我の力じゃ。テレパシーも習得できんとは、悲しいのう?」
クロエはニマニマしながら聞いてくる。僕がなんて答えるか、既に分かっているようだ。
「……僕が僕のままと分かって、最高の気分さ。さぁ、僕のまま主人公になってやろう」
クロエは、これでもかというほど顔を緩ませる。
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