『ムゲン王と呼ばれた男』

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僕の意識が現実へと帰ってくると、クロエの戸惑った顔が目の前にあった。時間はほとんど経っていないはずだ。 僕はクロエの目をしっかりと見据えて、 「……クロエ。諦めるな。勝とう」 「……っ、じゃから、もう良いと言っておるじゃろう。我の為に無理をするな……。というか、決着とは、なんの……」 「決着は付いた。説明は後だ」 困惑を続けるクロエの言葉を遮る。クロエの表情からは、不安と困惑。そして、根底に、この戦いへの諦めが見て取れる。 言いたいことはあるだろうが、今は時間が惜しい。 今必要なのは、クロエを奮い立たせる言葉のみ! 僕は、クロエの肩を掴んだままだった両手を離し、 「……クロエ。キミは勘違いをしている」 「か、勘違い……?」 キョトンとした顔。ホントに、クロエは表情がコロコロと変わる。嘘吐きな僕なら、ここで皮肉ることでも言うだろうが。でも今の僕は、素直に羨ましいと思うのだ。 少し心が朗らかに。そのおかげで、僕は震えもせず言葉を紡ぐ。 「……キミは、僕がここに、この戦場に来たことを、キミの為と言う。違う。全く、まっっったく違う」 言葉を強調する。こんな、力を込めて話すのはいつ振りか。声帯が驚いてしまいそうだ。 「僕は、卑屈な人間だ。後ろ向きな人間だ。昔はともかく、心の奥はともかく、外面は、そう振る舞ってしまうのが、常となってしまっている人間だ。これからも、素直に、朗らかに、元気よく、なんて。できる気はしない」 長年、こう振る舞うように努めてきたから。完全に、昔の、正義に燃える僕には戻れないだろうし、戻る気は毛頭ない。 「そして、逃げ続きの人間だ。敗走ばかりの人生だ。それなのに、負けるということに、慣れたなんて言い訳をしてしまうほど、負けが嫌いな人間だ。負けからは、徹底的に逃げる人間なんだ」 それはある意味、最も負けず嫌いだと言えるだろう。 「……じゃから、そんなナミヒトを我は無理やり連れて来て……」 「違うさ」 間違っている。無理やりだなんて、傲慢が過ぎるぞ王女様。
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