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「……キミの世界にも試験くらいあっただろう。そして、合格する見込みも無い試験を、落ちるだろうが、記念にと思いながら、試験を受けることを、記念受験と言うんだ」
「言葉の意味は分かったが、それが、なんの関係があるというのじゃ……」
分かっていなかったようだ。しかし、僕の説明を聞いたクロエの声音が弱弱しくなる。僕の言わんとしていることを、察しているのかもしれない。
「……僕があの時、記念受験じゃない、と言ったのは。キミがそんな心持ちでいると思ったからだ」
つまり、
「勝つ気がないと、思ったからだ」
「……っ!」
クロエの目が揺れる。やはり、そうだったのか。だから、僕は無意識だったなんて嘘を吐いたんだ。だって、
「……僕より強いキミが勝つ気が無いのに、キミより弱い僕が、心底勝とうと意気込んでいるなんて……。恥ずかしくて、とても言えなかった」
「……じゃが、でも……。策も、碌に無く……」
「理由などどうでもいい。今は、キミの勘違いを正すことが先決だ」
キミが勝つ気をなくしてしまった理由は、あまりに僕がふがいない。ただそれだけだ。キミに非などない。
そして、キミが『無理やり』僕を連れてきたなんて負い目も、ない。
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