『ムゲン王と呼ばれた男』

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「……そして、勝ちたいと、申しておる。まさに、焦がれておる。見ているこちらの身が焦げてしまいそうなほどに……」 クロエは僕の胸に手を当て、顔を緩ませ、慈しむ。 その様子は、まさしく聖女のように美しい。 「……こんな魂を見せられては、諦めるなんてとても言えんのう」 そして、クロエは二カッと笑う。この元気のいい笑顔も美しい。 「……ナミヒト、我はもう諦めるなどとは言わん。思いもせん。この魂を見て、我の魂にも火が付いた」 クロエは僕に手を伸ばす。 僕は、その手を取る。力強く。 「勝とう。一緒に」 「うむ!」 お互いの気持ちが一つになったのを感じる。こんなことは初めてだ。嬉しくなる。 しかし、これだけ格好良く、決めたが。 「……さて、勝つために、どうしようか」 「……うむ、分かってはいたことじゃが、締まらんのぉ~……」 「……壮大な決意表明だけで、戦況は引っ繰り返らないのは仕方ない。だからこそ、考えよう。勝つために、何ができるか。何をすべきか。クロエも、考えてくれ」 僕はそう言い、考える。また、現実が希薄になりそうなほど、考える。 ……隠れてから、まだ見つかってはいない。むこうはこちらを見失っている。 そう、見失っている。癇癪玉にひるんで、彼らは僕たちを見失ったんだ。意表を突かれたんだ。策は漏れていたはずなのに。 つまり、聞かれていたのは、それ以降。僕が何の能力もない人間だとクロエに告白した場面は、聞かれていない。 確実に聞かれていたのは、窓枠を触った時に霜が付いたあの時と、僕の水稲のお茶が冷めきっていた時。あの時、お茶の中に霜を仕込まれていたのだろう。だから、冷めないはずのお茶が冷めきっていた。 なら、彼らが思う僕のハッタリとは、『僕が何の能力もない人間の、口八丁のハッタリ』ではないはずだ。何故なら、この学院にいる以上、何かしらの異能があるのが普通だから。なら、彼らが想定するハッタリは……。
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