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「……キミは欧米文化に馴染めそうにないな」
「真面目な話じゃっ。それに、口づけすると自動で吸精をするわけではない。自らの意志で吸精を始めん限り危険はない。というか、吸精は本来吸精相手の粘膜とこちらの粘膜を接触させるのが起源であり、つまるところ経口接触が始まりじゃったんじゃ。そこからサキュバスは性行為、吸血鬼は吸血、夢魔は淫夢と派生進化を遂げ」
「分かった、分かったからその進化論はまたの機会で」
「ナミヒトが呆れたような顔をするからじゃっ。……して、先の話でも出たように、サキュバス族と吸血鬼は遠縁じゃ。我も吸血から精を吸おうと思えば吸える。まぁ実際は血をフィルターにして魂を吸いきってしまうことを防ぐのであって、吸血とさえ呼べんが、そこは重要ではない。重要なのは……」
クロエは視線を落とし、僕の胸のあたりを見る。
「……不完全な吸精だろうと、それが『サキュバスの最も好みの魂』なら、子種をすする吸精をはるかに凌ぐじゃろう」
「…………もしや、僕の魂がそうだと。キミは言いたいのか」
「……うむ。しかも、始めて見た時より、今はさらに狂おしいほどに見惚れる魂じゃ……。我にとって、これ以上の魂はないと断言できる」
クロエは確信を瞳に込め、続ける
「ナミヒトの魂をほんの少しでも吸えれば、あのパイロキネシスと氷魔法使いに決して負けぬ。しかし、もう一度問うぞ。吸魂はとても危険で、しかも我は初めてじゃ。ほんの少しの吸魂でも、とてつもない苦痛があるやもしれん。それどころか、加減が狂って全てを吸い尽くしてしまうかもしれん」
クロエは一つ息を吐き、シャキンと爪を伸ばした。こいつで引っ掻いて、血を出させるつもりなようだ。
「それでも、やるかの」
僕は、ニヤリと笑い、手を差し出す。こいつはきっと、上手く笑えたはずだ。
「……愚問だな」
僕の返答に、一瞬ハッとしたような顔の後、クロエは茶目っ気たっぷりの笑顔でこう返す。
「……承った、我が王よ。必ず勝利をくれてやろう」
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