遠くて、近い

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 意外なくらい、なんでもなかった。  0.03ミリってどれくらいの薄さだろうと、目を閉じて頭の中に定規の目盛りを思い浮かべながら、少し息を止める。あの小さな幅の更に何十分の一なんて、うまく想像できない。  その薄さで出来たゴムの膜で覆った指でよくほぐされた後、挿入される。わりと予習してある通りに進むことに、半分安心半分落胆。想像していたほどじゃない、耐えられる痛みだけれど。少し苦しくて思わず声が漏れる。なるほど、こういう感じなんだ。  自分の体の奥に隠された秘密のスイッチを押されたような感覚。でも、そこにあることも今起こっていることも、まるでずっと前から知っていたような。  なんだか人生で一番大事なことを知ってしまったような気になっていた。
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