遠くて、近い

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「やっぱそうなんだ」 「何が?」 「ごめん、カマかけた。前にコンビニで見て、もしかしてそうかな? って思ったからさあ。夏だからって、髪の毛生乾きで彼氏と出歩かない方がいいよ」  尚紀が膝と頭がくっつくほどに項垂れて絶望していると、ごめんねごめんねと、背中をさすってくれた。 「奥さんに勝つ自信、どれくらいあった?」 「……もう忘れちゃった」  バスが来て、じゃあねってお互いに小さく手を振り合う。 「あんたも大変でしょ、色々。私は陽の当たるところを歩けないようなことしたと思うけどさ、あんたは違うよね。もっと堂々としていいんじゃないの」  バスのステップを上りかけた河西は振り返ってそう言った。
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