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翌日、獅子ヶ谷より早く起きた朝、友香に連絡するためにスマホを手にする。
二人の関係は、完全に元通りというわけにはいかないけれど、この状態を友香には伝えるべきだと考えた。コンペは終わった。契約も交わした。あとは、自分と友香の問題だ。自分の気持ちは獅子ヶ谷と別れても変わることはなかったこと、この先、獅子ヶ谷以外の誰かと繋がる未来がないことを、きちんと伝えないといけない。
会って話がしたい、とメッセージを送るとすぐに既読がついて返事がきた。
「今日の午後、おばさまのお見舞いへ行くので一緒にどうですか」
断る理由もないので、病院の前で待ち合わせることにした。
「獅子ヶ谷」
「……ん」
まだ隣で布団の中にいる獅子ヶ谷に声をかける。
「これから家に帰って着替えて、友香に会ってくる」
「……」
「ちゃんと話をしてくるよ」
返事はなかった。でも聞いていないわけではないことはわかっていた。
――自分は何か言える立場にはない。
そんな獅子ヶ谷の言葉が聞こえてきたような気がした。
◆ ◇ ◆
病院の前には、明るいピンク色のワンピースに包み、見舞いの花束を抱えた友香が佇んでいた。
「大輝」
視線に気づいたのか、優しい笑顔で手を振る。
「待ったか?」
「ううん、今、来たとこだから大丈夫だよ」
にっこりと笑う友香は今日もかわいらしかった。
高校のときから、器量も愛想も良くて、誰からも好かれて高嶺の花だった白鳥友香は、あの頃とちっとも変わっていないのだと実感する。
当時、身長も小さくて特に目立つ存在でもなかった自分となんで付き合ってくれたのか、と聞いたことがある。
「大輝は、誰よりも男らしくて、こんな人が自分の彼氏ならいいなって思った」と恥ずかしそうに告げてくれた。その言葉を聞いて、大切にしようと決めた。
あの頃、自分たちはずっとこの先も恋人でいられると思っていた。
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