最終章:一生、俺のそばにいてください

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「あー、泣いた」  病院を出て、友香はうーんと伸びをする。 「友香」 「なーに?」 「獅子ヶ谷のこと、いつ気づいた?」  姉から会社のこと、自分の恋人が男であることは知っていたかもしれないが、それが獅子ヶ谷だとなぜわかったのか、それがずっと引っかかっていた。 「彼が最初に飛び込み営業してきたときに、うちの会社の広告やりたいって気迫が他の人と違ったんだよね」 「え?」 「うちの商品が、とかそういうことじゃなくて、うちの広告をやることで誰かが喜んでくれる、そんな感じだった。ああ、彼も私と同じ境遇かもしれないって。だから興味を持ったの」  私と同じ境遇――やはり友香が明和製菓を志望した理由はそうだったのか。 「接待の席で、彼が恋人のためにうちの仕事取りたいことを察して、すぐに大輝だとわかったわ。ああ、この人が大輝の新しい恋人なのかって」 「だからって……」 「正直、がっかりだったわ」  友香は、はぁとため息をつく。 「がっかりって、なんだよ」 「だって、恋人と別れることがコンペに参加させる条件なら彼はどうするのかと思ってたら、あっさり別れてくるし、しかも男同士で付き合うってことに、覚悟がなさすぎて、呆れたわ」 「それはおまえには関係ないだろ」 「あるわよ。こんな人に大輝を渡せない、やっぱり私じゃなきゃだめだって思ったもの」 「あのなぁ」 「でも、無理だった。別れてからの大輝を見ていたら、私じゃこの人を幸せにできないんだって」 「友香……」 「ここんとこの大輝は本当に心ここにあらずって感じでひどかった。そのたびに、大輝の方が獅子ヶ谷くんじゃないとダメなんだってことがわかって、かえってつらくなったわ」  別れてから友香とは何度か会ったが至って普通だったと思っていたのに、違ったのだろうか。 「今日、大輝の顔を見てすぐにわかった。獅子ヶ谷くんと戻ったんでしょ。それで私に報告するために連絡したんでしょ」 「ああ……」 「なら、よかったじゃない」  よかった、のかどうかは、正直まだわからない。二人が離れていた影響は、まだ僅かだけれど残っている。手放されたことも、なかったことにはできない自分がいる。
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