最終章:一生、俺のそばにいてください

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 友香と別れてから、一度家に帰った。休みということもあって姉と台所で遭遇したが、昨日帰ってこなかったことも知っていたのか、「今夜も帰らないんでしょ」と当たり前のように言われた。  もちろん姉には、獅子ヶ谷のことは報告していないけれど、妙にニコニコとしていた。友香から聞いたのかもしれない、いや会ってたのはつい30分ほど前なのに、と首をひねりながら家を出た。  さっき会話を交わすことがなかった獅子ヶ谷の家までの道、電車の中から窓の外を見つめる。絶望と落胆の中にいた昨日までとは違い、少しずつ見える世界が色づいてきたように思う。  獅子ヶ谷を想っていた頃に戻ってもいいのだ。もう自分と獅子ヶ谷を遮るものは何もないのだから。 ――「でも獅子ヶ谷くん……迷ってたよ?」  獅子ヶ谷の戸惑いの表情がすぐに浮かんだ。  きっとあいつは一人で悩んでいる。聞いてくれればいいのに、それすらも躊躇っている。友香の言葉を聞いて、やはり自分は誰よりも獅子ヶ谷を理解していると思った。  早く獅子ヶ谷に会いたい。そしてできることなら、楽にしてやりたい。不安で押しつぶされそうになっているあいつを。 ◆ ◇ ◆  チャイムを鳴らすが返事がない。ドアノブを捻ると、鍵は開いていた。出かけるときに鍵をかけていかなかったから、そのままだろうか。  冬の夕方は夜を迎えるのが早い。すでに部屋は薄暗くなっていて、足元を確かめるようにして、そのまま奥へ進んだ。 「獅子ヶ谷~?」  出かける予定は聞いてなかったけれど、と壁の電気スイッチをつけると、テレビの前のソファに獅子ヶ谷が座っていた。 「うわ!おまえ、いたのか」 「……ハムちゃん?」 「昼からそこにいたのか?」 「うん」  昨日着ていたパジャマ姿のまま、夕方までここで座っていたなんて、一体何を考えていたのだろう。本格的に重症のようだ。
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