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この光景、この空気、以前、こんな獅子ヶ谷を見たことがある。
確か、獅子ヶ谷が、大輝は獅子ヶ谷の弟である要を選ぶと思い込んでいたときだったはずだ。いつも傲慢で自信家の獅子ヶ谷が、不安でたまらないのか、怯えて、その顔はまるで子猫のようだ。
背中に手をまわし、その高い位置にある頭をふんわりと撫でた。
「会ってきたけど……何?」
「ハムちゃん……いじわるだね」
「聞きたいことがあるなら、聞けばいいだろ」
少しの沈黙のあと、小さな声で獅子ヶ谷は呟いた。
「俺と別れてた間、白鳥さんと、付き合ってたの?」
そういえば、それは昨日聞かれなかった。
聞かなかったのは、精一杯の虚勢で、本当は聞きたくて仕方なかったのだろうか。抱きしめられていて、獅子ヶ谷の顔を見ることはできないけれど、不安な気持ちは震える声音でわかる。
「気になるのか?」
「だって白鳥さんはずっとハムちゃんが好きだった」
「……」
「白鳥さんはハムちゃんと付き合いたかったはずだ」
「そうかもしれないな」
「……」
静かに時間が流れるその間にも、獅子ヶ谷の頭を撫で続けている。
「付き合って、ないの?」
「どう思う?」
「俺は、ハムちゃんに一方的にひどいことをしたって思ってるから……そういうことになっても仕方ないっていうか……」
「じゃあ、俺と友香と付き合ってたら、おまえどうするの?」
抱きしめる腕にぎゅっと力が入る。明らかに、拒絶しているのは伝わってくるが、それを言葉にはできない、そんなところだろう。
「おいおい。そこはさ、奪い返すとか、振り向かせてやるって言うとこなんじゃないの?」
「その、俺でいいのかなって」
「今さら、だな。いつもの自信はどうした?」
「俺は何があってもハムちゃんのこと好きだよ」
「うん、わかってる。だって俺もだから」
びくりと体が驚いて、獅子ヶ谷は腕を緩めて、大輝と目を合わせた。
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