第3章:時には、牙を剥いて

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「バカ!バカ!あいつ、ほんとバカ」  スタスタと早足で歩く。鼓動が早い。心臓の音がうるさい。鳴り止まない。顔から火が出そうなくらい熱い。無理やり襲われそうになったときは、ただの恐怖でしかなかったのに。優しく包まれて甘い言葉を囁かれた今、こんなにも体が熱い。獅子ヶ谷なんかに、なんでこんなにどきどきしているのだろう。  そもそも獅子ヶ谷は男だ。男相手にこんな気持ちになるなんておかしい。 「そもそも、なんで俺なんだよ」  わからないことだらけだ。  それに、もし獅子ヶ谷を好きになって付き合ったとしても、体の繋がりだけになるんだ。そして、下手だったりしたら離れていくんだ。好きだと思っても、気持ちなんてすぐに消えてしまうんだ。もう誰かを好きになるなんてしたくない。一人のほうがいい。 「何を言ってんだ。俺は!好きになんかならねーよ!」  もし、なんてこともありえないんだと自分に言い聞かせながら、浜村は家路を急いだ。
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