第1章:浜村大輝、最大の秘密と天敵あらわる

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男のくせにと言われれば否定できないが、自分はとにかく甘いモノに目がない。ストレスを癒やすためだと自分に言い訳をしながら、甘いモノを口に運ぶのは至福のひとときだ。  自分が甘いものに目がないことは、総務はもちろん、会社の誰にも知られていないはずだ。今まで、バレないように隠し通してきた。知っているのは同期入社の社員くらいだが、そいつらにも口止めはしてある。自分の机の鍵付きの引き出しには、賞味期限順にお菓子がぎっしりと並べられている。この中だけは絶対に見られてはいけない。総務部主任浜村大輝の最大の秘密だ。  ただでさえ小柄で、時々大学生に間違われるほど童顔な自分に、さらにかわいいイメージはつけたくない。こんな真面目が仕事をしているような自分が、スイーツやお菓子が大好きだなんて、キャラが崩壊するに決まっている。  普段から、徹底して甘いものなど興味がない顔を貫いている。他の部署から土産をもらうときも、お菓子をわけてもらうときも、「せっかくだから頂くよ」というあくまで、付き合って食べてあげるんだスタンスを忘れない。わざわざ断りはしない。『同じ棚の甘いモノを食べる』これが総務部円満の秘訣だ。  ちなみに、今日のおやつは…期間限定の明和製菓のアーモンドチョコだ。これは、自分の中でキングオブお菓子である。しかも、この限定品は納品数に限りがあるらしく、事前に入荷するコンビニを下調べして、朝、ようやく手に入れた逸品なのである。明和製菓の製品の中には、ご当地でしか買えない工場限定品もあるそうなのだが、それはさすがに手に入らないので、せめて手に入る全国流通のものなら調べてでも手に入れたい。下調べは念入りに行う。去年、お昼に買いに行って完売だった苦い経験を活かした結果だ。 「あ、もしかしたら営業部の方がいらっしゃるかもしれません」 「獅子ヶ谷さんが仙台から帰ってくるはずですね、主任」  鞄から戦利品を取り出そうとしていたところに急に呼ばれたので、びくりと肩が跳ねた。 「え?ああ、そうだったか」  確かに、さきほど処理した出張手配書の中に営業部の獅子ヶ谷徹(ししがやとおる)の名前があった。 全国の支店や、取引先をまわるのに、出張の多い営業部は、時々総務部に土産を持ってきてくれる。日頃、彼らの書類を手続きしている我々を労ってくれているのだろう。
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