第5章:答えは、とっくに出ています。

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 獅子ヶ谷が家につくまで浜村の腕を掴んだまま、無言だった。家の前でその手の反対の手で鍵を探すが、その動作には焦りが見えた。獅子ヶ谷の一連の動きをじっと見つめながら、今日は逃げたいという気持ちはなかった。  開いた扉の内側に強引に腕を引かれそのまま壁に体を押し付けられる。扉に背中が打ち付けられたと同時に獅子ヶ谷の両腕が浜村の耳元をかすめ、その両手もバンと乾いた音を立てた。その音の大きさは、獅子ヶ谷の気持ちそのものなのだと思った。 「ハムちゃん、ひどいよな」 「……何…が?」 「俺、こんなにハムちゃんしか見てないのに」  その返事をする前に唇は塞がれた。無理にこじあけられた口に獅子ヶ谷の熱い舌が侵入する。その勢いで後頭部がゴツンと音を立てる。獅子ヶ谷と何度かキスをしているけれど、いつも強引に奪われていて、普通にキスした記憶がない。キスというのは、もう少しお互いの気持ちが高ぶってするはずだと思っていたのに。そもそも男相手にキスする機会も普通はありえないのだが。 「ぷはっ!……ちょっ…落ち着けって……」 「ねぇ、俺が他の人のことを好きになったかもしれないって嫌な気持ちになったんでしょ」 「何…言って……」 「わかる?それって嫉妬ていうんだよ。ハムちゃん、俺のこと好きなんじゃん」 「違う!嫉妬じゃない…」  悪あがきなのはわかっているけれど、今はまだ認めたくない自分がいるのだ。 「ふぅん…まぁいいよ。体に聞くから」 「やめ…ろって」  獅子ヶ谷の舌は、浜村の口内でせわしなく動いて、歯列をなぞり、逃げようとする舌を捕らえて絡めてくる。唇はその舌を、甘く、時にはきつく吸ったり、くちゃくちゃといやらしい水音をさせる。恥ずかしくて拒みたいのに、体からだんだんと力がぬけていく。  薄目で獅子ヶ谷を見れば、その目は捕えた獲物を上から見下ろしてじっくりと味わうことしか考えてない余裕に満ちた目で、目が合うと背筋がぞくりとした。その目から逃げたかったはずなのに、すでに体が自分ものではなくなってしまったみたいで、その目に、その舌にすべてを委ねてもいいと思い始める。こんなはずじゃないと主張していた理性は、すでに自分から離れてしまいそうだった。
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