第1章:浜村大輝、最大の秘密と天敵あらわる

5/7
前へ
/236ページ
次へ
 営業部の獅子ヶ谷といえば今年の新入社員の中でいきなり営業部の売上トップレースに食い込んできた期待の新人だ。面接を担当したのは浜村だったが、そのときも他の学生とは違ってイマドキ珍しい自信家タイプだった印象がある。それが縁なのか、なぜか獅子ヶ谷は、最初の出張から自分に名指しで出張土産を持参してきたのだ。 「獅子ヶ谷くん、君はまだ給料も低い新人なんだからこういう気遣いは無用だよ」 「いえ、俺、書類関係が苦手で、いつもメーワクかけてますんで」  若いのに律儀だと感心していたが、そのあとの台詞が酷かった。 「それともなんですか、俺の持ってきた土産は受け取れないんですか?」 「そんなことは言ってないだろ」  背の高い彼が、若干背の低い自分を上から見下ろして、ずいぶんと威勢のいい……正しくは、生意気な態度が印象に残った。とはいえ、結果も残している彼だ。多少内面が粗悪でも、社内の女子にはモテてるらしい。総務部の女子も、なぜか彼を高く買っている。 「獅子ヶ谷さんのセレクトって、なんかオシャレですよね」 「今回はなんだろうね」 「君たち、おみやげを待ってるみたいな発言はやめなさい」  ざわめく女子たちをデスクからなだめていると、ドアをノックする音が聞こえた。 「失礼します」 「あ、獅子ヶ谷…さん」  噂をしていた獅子ヶ谷が目の前に現れ、女子の顔色が明るくなった。彼はきょろきょろと総務部内を見渡して、浜村を見るなり、あっと驚いた顔をした。 「浜…村さん……ちょっといいですか」 「俺?ああ、いいけど」  まさか自分に用があるなんて思わず、その場にいた誰もが、何事かと思った。 ***  総務部を出て、獅子ヶ谷についていくと、すぐ隣の休憩室に入っていった。休憩室は、たまたま誰もいないようだった。 「すみません、呼び出して」 「別にかまわないけど……どうしたんだ?」 「……これ」 「ああ、土産か?いつも悪いな」  それなら呼び出すこともなかろうに、そう思いながら手渡された紙袋を見ると、そのパッケージには見覚えがあった。 「こ、これは…」  思わず持つ手が震えた。それは、自分が楽しみにしていた明和製菓の限定アーモンドチョコレート仙台工場バージョン。まさに仙台に行かなくては、手に入らないものだからだ。なんで、これを自分に?もしかして甘いモノ好きなのが、こいつにはバレているというのか?
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3601人が本棚に入れています
本棚に追加