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「へぇ…でも俊哉が本出してるなんて知らなかったな」
「ペンネームを書いてるからな」
「え?え?どんな名前なんだ?」
勢い良く捲し立てる律に圧倒される律。
「どんな名前でも関係ないだろ」
「ある!後で俺が買って読むんだよ」
あぁ…面倒なものを拾ったと俊哉は悔恨の念を抱く。勢いに押され結局はペンネームを吐いてしまった、後で読むとか言ってたが本気だろうか?と途方に暮れる。
さっさと家に届けて二度寝しよう…そう心に決めて朝ご飯を食べて家を出た。
「なぁ?」
「……何?」
今度は何だろうかとうんざりする俊哉。
「電話番号教えてくれ」
上目遣いで懇願して来た律。無茶なお願いじゃないことに俊哉はほっとした。
「良いぞ」
電話番号を交換すると律はフフフ…と笑い出した。
「なんか学生時代を思い出すね」
「あぁ…」
俊哉と律が通ってた中高一貫校で全寮制男子校だった。俊哉と律は同じ部屋で音楽家として繊細な感性を持つわりには実生活はズボラそのもの律に俊哉が手を焼いたのは数知れない。
すぐ部屋は散らかすわ、鍵を無くすわ、迷子になるわで枚挙に暇がない。挙げ句、部屋では裸族だったり、独りでは寝れないとか言ったり色々と糸一本でも脚を踏み外してたらこうやって会話出来ないだろう。
「お前の家はどこだ?」
「あっち、家に着いたらお茶出すよ」
俊哉が目を瞠った。
「あっ…しーつれいしちゃう!!いくら俺でもお茶くらいは出せるんだぞ!!」
俊哉は首を横に振る。
「そうじゃなくて…お前の家の方から煙が見えるのは気のせいか?」
「…へ…?」
律も煙に気付いたのか間抜けな声を上げる。嫌な予感がして律の家の方に走る。
「…そ、そんな…」
見るも無惨なアパートを見て律は膝から崩れ落ちる。俊哉の嫌な予感が的中したのだが…。
「何があったんだ?」
「火の消し忘れがあったのよ」
俊哉が思わず呟いた独り言のような質問に答えたのは初老の大家さんだった。
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