第1章

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御住職は生きているのかな?いや、生きているわけないよな~そんな事を考えながら、踏切を渡り、坂道を登って行った。寺の境内に車を停めると、庫裏に声をかけた。 「すみません。御住職樣はおいででしょうか?」 すると、秋夫の背後から声がした。 「わしに用かの…」 秋夫が振り返ると、そこに住職が立っていた。住職は秋夫が話すより早く、 「もしかして、秋夫ちゃんか?」 と言った。 「はい!」 秋夫は住職が数十年経っても自分の事を覚えていてくれたのがすごく嬉しかった。 秋夫と妻は、本堂の縁側に住職と座り、住職の奥さんが入れてくれたお茶を飲んで昔話に花が咲いた。 やがて、境内にオート3輪が入ってきた。そして、頭に手拭いを鉢巻きにした作業員風の男が降りてきた。 男は秋夫を見て、手を上げた。 「健ちゃんか?」 今度は秋夫のほうから声をかけた。 「よう!秋坊!よく来たな!御住職の奥さんから電話もらって、急いで来たんだぞ!懐かしいな~」 二人は再会を喜びあった。子供の頃、一緒にイタズラをした思い出が甦った。そして、時間はあっと言う間に過ぎていった。 「今日は、これで帰ります。また、必ず来させて下さい!」 そう言って秋夫と住職、それに健ちゃんは互いにかたい握手をした。 「必ず、また来ます!」 そう言って車窓から手を振った。 秋夫と妻の正枝は、そうして、笹子村を後にした。 秋夫にとって本当に楽しい一日だった。子供の頃に帰った気分だった。自宅に帰っても、まだ、夢から覚めない心地がした。 それから、半月後、秋夫は妻の正枝を乗せて、再び、笹子村に向かった。 あの笹子トンネルを抜けて、そこには、あの懐かしい景色があるはずだった。 しかし、笹子トンネルを抜けて、秋夫がそこに見たのは、大きなダムだった。 秋夫と妻の正枝は目を疑った。 あれは何だったんだろう… 道端にダムを望む展望駐車場があり、秋夫は停車した。
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