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「良いかい。入口は吹雪が吹いて来る方角の逆の方角に作るんだよ。そして、入口の天井は低めにして、暖かい空気が溜まるようにするんだ」
「わかりました!」
やがて、シェルターが完成して、二人は中で、身を寄せ合って寒さをしのいだ。涼子は一晩中、風間から、雪山登山の体験を聞いた。どれも、貴重な話ばかりだった。
風間が言った。
「酒井さん、いいかい、絶対に山を甘く見ちゃダメだよ!ちょっとの油断が命取りになるからね!絶対に山で死なないでよ!たとえ、遭難しても必ず最後まで生きる希望を捨てたらダメだよ!」
そう、忠告してくれた。
翌朝、天気は快晴となった。
救助隊には関南大学ワンダーフォーゲル部、それに交流のある北東大学ワンダーフォーゲル部も加わった。救助隊が雪を掻き分けて進んでいると、遥か遠くで手を振る男性の姿があった。
北東大学ワンダーフォーゲル部の一人が驚いたように、
「あれ、風間先輩じゃないですか?あの赤いウェア見覚えがあります」
と言った。
すると、そばにいた仲間が、
「バカ言うなよ!風間先輩は昨年、この山で遭難して遺体も見つかっていないんだぞ!」
「でも、確かに…」
救助隊を先導するように、男性は先を進んで行く。救助隊は後に従った。やがて、男性の姿が見えなくなった場所にシェルターが確認された。救助隊はシェルターに入り、そこに涼子の無事な姿を見つけた。
「風間さんはどこですか?」
涼子が姿が見えない風間を心配して聞いた。北東大学のメンバーの一人が、
「酒井さん、北東の風間なら昨年この山で遭難して遺体も見つかっていないんです」
そう答えた。
「嘘です!あたしは確かに風間さんに助けられたんですよ!」
涼子がそう言って、シェルターの中を見渡した時、シェルターの片隅に凍結した赤いウェアを着た男性の遺体の一部が見えた。
涼子は言葉を失った。その時、北東のメンバーが、
「風間先輩の霊が酒井さんを助けてくれたのかも知れませんね!実は風間先輩は合コンで逢った貴女の事が好きだったんです。おくての風間先輩は自分の気持ちを貴女に伝えられず片想いに終わってしまいましたが…」
涼子は胸を締め付けられるような悲しみに泣いた。
こうして、北東大学ワンダーフォーゲル部OB風間の遺体は無事に収容されることになった。
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