第1章

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酒井涼子は関南大学のワンダーフォーゲル部に所属する3年生だった。3月、彼らは5人でパーティーを組み、万年雪の残る霊鷲山の山頂を目指した。緩やかな北斜面からのルートを選んだ。2000メール地点まで来た時、涼子はトイレに行きたくなった。涼子は最後尾を歩いていた部長に話して列を離れて用を足した。涼子が列に戻ろうとしたその時、轟音がしたかと思うと上から雪崩が襲って来た。涼子は雪崩に巻き込まれた。 どのくらい時間が経ったのか、涼子は意識が戻った。涼子は新雪の中に埋もれていた。パーティーの仲間がどうなったかもわからなかった。身体を動かそうとしたが身動きできなかった。助けを呼ぶこともできなかった。 その時、誰かが雪を掻いて来る音がした。 やがて、その音は、涼子のすぐ目の前まで来た。 涼子の目の前の雪が崩れ、男性が現れた。 「大丈夫?」 男性が聞いてきた。 「はい」 不安と安堵から、涼子は男性に抱きついた。 「ありがとうございます。助かりました」 「良かったね」 「あなたは?」 「北東大学の風間だよ。君は関南大学の酒井さんだろ?」 「あたしを知っているんですか?」 「ああ、俺が部長をしていた4年の時に君は1年だったよね?うちの大学と君の大学の合コンで、君の前の席に座ったのが僕だよ」 「そうだったんですか!」 「今はOB会でやっているんだ。今回は単独で登ったら、たまたま、君が雪崩に遭うのに遭遇したんだ」 そう聞いて、涼子はホッとした。 風間は、 「もう夜になる。明日になれば関南の仲間が救助隊を連れて来ると思う。今夜はどこかでビバーク(夜営)しなくちゃならない。ツェルト(テント)を張るのも良いが、シェルター(雪洞)を掘るほうが良いだろう」 そう言うと、風間が雪の堅い場所を探して、二人はスコップでシェルターを掘り始めた。涼子は風間の的確な指示に頼もしさを覚えた。一人だったらパニックになっていたに違いなかった。雪山でパニックに遭うことの恐ろしさは涼子も話に聞いていた。
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