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東京某所。いつも夏の時期になると、ここでは小さな花火大会が行われた。
河川には数百の人がごった返し、賑わいを見せている。
年々減少傾向にある蛍もちらほら川辺を往来している。ある人は足を止め蛍を眺め、ある人は花火に夢中になり、蛍の存在など気にしない。
穐津 智紹(あきつ ともつぐ)は、仲間たちと離れ一人出店で買い物をしていた。
アッシュブルーに染めた髪は短くカットされており清潔感があるが、耳にはジャラジャラとピアスをつけている。
首から下げているクロスのネックレスが月明かりに照らされてキラリと光った。
「おっちゃんたこ焼き一つ」
「あいよ」
出店の主人はてきぱきとたこ焼きを器に盛りつけてソースをたっぷり塗ってくれた。智紹はお代を払いそれを受け取る。熱々のたこ焼きを一つ口の中に放り込む。どこにでもある出店のたこ焼きの味に安堵感を覚えつつも、食べずにはいられなかった。
速足で仲間の元へと戻る。その途中、人気の少ない一角があった。何の気なしにそちらを見つめていると、見覚えのある顔を見付けた。
草摩 時影(そうま ときかげ)―。智紹の通う高校の生活指導の先生だ。いつも、フレームレスの眼鏡をかけていて、その眼光は冷たい。オールバックに流した髪の毛や、きりりとした眉は、草摩のトレードマークのようなものだ。常に冷静沈着で彼が声を荒げたところなど見た事がない。
しかし、智紹たちのような校則を守らない生徒に対しては厳しい指導をすると生徒からは怖がられている存在だ。彼も花火を見に来たのだろうか。そ んな事を考えていると、草摩の隣に大柄の男が居る事に気が付いた。
(喧嘩か…?)
智紹はすぐにそう思った。大柄の男が、草摩の肩を掴んでいたからだ。
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