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しかし、そう思ったのも束の間、大柄の男が草摩にキスをした。それを嫌がるように草摩は逃れようともがくが、上手くいかない。
智紹はニヤリと笑った。今度生活指導室に呼ばれた時にこれは良いネタになるのではないか。そんな邪な考えが浮かんだのだ。
意気揚々と仲間の元へと戻った。仲間の一人がどうしたんだ、と聞いてきたが智紹は言葉を濁して打ち上がる花火を見つめた。
盛大に咲く花火と同じように、智紹の心はワクワクしていた。
*****
夏休みが終わり登校初日。智紹は、今までよりも派手な格好で学校へと向かった。もちろん目的は生徒指導室に呼ばれるためだ。
夏休み中に追加で開けたピアスホールにはど派手なピアスをつけた。制服は着崩し、腰履きをし校則違反のオンパレードだ。
職員室をわざと通り、声を掛けやすいようにする。智紹の読みはすぐに当たり、生徒指導―草摩から呼び止められた。
「なんだその恰好は」
「別に好きでやってるからいーじゃん」
草摩は眉間にしわを寄せて、嫌悪感を露わにする。フレームレスの眼鏡から除く瞳は怒りに満ちていた。
「話がある付いて来なさい」
「へーい」
草摩の背中を追う様にして、智紹は後に続いた。周りに居る生徒はざわざわと智紹の方を見ては憐れむような表情をしていた。そんな生徒たちの事など気にも留めずに草摩と智紹は生徒指導室へと向かった。
人気の少ない校舎の一室に入り、草摩は智紹を座るように促す。智紹はだらしなく椅子に座り窓の外を見つめた。
「穐津智紹。2年か…夏休みはもう終わったぞ?」
「知ってますよ」
「ピアスを外して、服を正せ。ピアスは帰るまでこちらで預かる」
智紹は草摩を見据えて口を開いた。
「ねぇ、センセー、花火大会の日にさセンセーキスしてたよね?」
「何を……」
智紹は椅子から立ち上がり、腰掛けている草摩の隣に移動した。ニッコリと笑って草摩に告げる。
「俺、見ちゃったんだよねーセンセーと男の人がキスしてるとこ」
「っ!」
「ねぇ、学校にばらされたくないよね?」
草摩の背後に回り、後ろからそっと草摩の耳元で囁く。表情こそ変えない草摩だが、内心焦っているのは事実だった。智紹はそれが見て取れた。
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