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良太が見ていると、水難者の霊は30人くらいいた。浜辺に車座に丸く輪になって座ると、そのうちの一人が、
「今日は、白浜で若い女の足を引っ張って溺れさせてやったよ。」
そう言うと、脇に座っていた奴が、
「俺も手伝ってやったよ。虫の息だったから、そろそろ、ここに来るだろう」
と言った。
その時、水面から新たに一人が上がって来た。すると、輪の中の一人が、
「やあ、来たか!こっちだ!こっちだ!こいつは港栄丸の船長だぞ!今日からは俺達の仲間入りだ!」
と、手招きした。良太は、思わず声を出しかけた。
その時、霊の一人が辺りを見渡して、
「おい、臭わないか?生きている人間の臭いがするぞ!」
そう言うと、輪になって座る全員がざわざわとざわめいた。
「俺も臭うぞ!辺りを探してみろ!」
一人が言うと、霊逹は、狭い洞窟の中を探し始めた。万事休すだった。
「いたぞ!」
ついに一人が良太を見つけ。襟首をつかまえて皆の前に引き出した。
「海の中に連れて行ってやろう!俺達の仲間が増えるぞ!」
「そうだ!そうだ!」
霊逹は、そう言って喜んだ。
その時、霊の一人が前に出た。
「皆さん、申し訳ないが、こいつだけは見逃してやってくれ。頼む!」
そう言って頭を下げた。
「どうしたんだ?」
一人が聞くと、
「実は、こいつは俺の倅なんだ!」
と答えた。
また、霊逹がざわめいた。そして、そのうちの一人が、
「仕方ないな!運の良い奴だ!」
そう言うと、前に出た一人を残して、全員の姿がスッーと闇の中にかき消えた。
前に出た一人は、良太の前に立った。そして、
「俺が死んで苦労したろうな。母さんを大切にしてくれよ」
そう言い残して、同じように闇の中に姿を消した。
「父さん!」
良太は泣いた。
救助隊がむくろ洞にいる良太を見つけたのは翌朝の事だった。
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