第1章

3/4
前へ
/4ページ
次へ
そう言って、遺言書の写しを響子に渡した。 院長は、 「お父様は、結婚式の当日に御自分が危篤状態になられた時には、その事を娘に知らせないで欲しいと書かれました。披露宴が終わるまでは伏せるようにと」 そう言った。 響子は納得できなかった。 「しかし、父は結婚式に来てくれたんです」 「お父様は、10時少し前に意識不明になり、11時7分に息を引き取られました。もし、お父様が式に出られたなら、魂が抜けて行かれたのかも知れません。どうしても、出てやりたい。娘の花嫁姿が見たいとおっしゃられていましたから」 響子の頬を大粒の涙が流れ落ちた。 「お父さん!」 響子が父の亡き骸を抱きしめた時、フッとラベンダーの香りがした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加