第2章 囁きは秘め事の如く -snow version-

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 雪野は去年、約十年付き合った恋人と別れた。  恋人は雪野が勤めるホテル経営者の御曹司であり、支配人の桜庭だ。  彼の縁談がまとまり婚約することになったのだ。  桜庭はホテルの跡継ぎで、いずれは別れる覚悟はしていたつもりだったが、いざ現実になると辛かった。  しかし別れを告げられた時は、雪野は縋り付くことはせず綺麗に別れた。  だからといって十年愛し続けた男をすぐに忘れられるはずもなく、桜庭を恋しく思って泣く日々が続いた。  たまにホテル内で見かけた日は密かに喜び、婚約者とのツーショットを見てしまった時は、心が抉られる程辛くて死ぬ程泣いた。  そんな辛い日々を過ごして、雪野はもう桜庭のいるホテルは辞めようかと考えもしたが、責任ある仕事を放り出す訳にもいかず、淡々と機械的に生きていた。  傍目には穏やかにスマートに仕事をしているように見えても、雪野の心はボロボロでいつ壊れてもおかしくなかった。  そんな時、バイト面接が雪野のスケジュールに入った。  一応係長の役職がある雪野にとって不定期に入るそれも仕事の一つだった。  いつものルーティンワークのはずだった。  だが、この時面接に来た男性に、雪野は一目で恋に落ちた。  鳴海真聡(なるみまさと)。  精悍な顔立ちに、逞しい身体。  無愛想だが、女性にモテるオーラを放っていた。  話をしてみるとウェイターの適性はありそうだったので、雪野の中では採用を決めた。  後は人事部の判断だった。  履歴書を改めて見ると、十九歳、大学二年生だった。
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