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「そっか、そうかも。俺、インターン、楽しいけど、やっぱ他の奴らに比べたらみそっかすでさ。人の何倍も勉強したり、調べたりしなくちゃ追い付けなくて。けっこうきつかったもんなあ。そうだな、自分で気付いていなかっただけで、ストレス溜まってたかも」
「頑張り過ぎないようにね」
「大丈夫。また明日から後半戦始まるけど、メグに会えて復活したし、頑張れる」
並んで購入した当日券で、展望台へと上がる。
展望デッキだけで帰ってもよかったが、せっかくだからと追加料金を払い、更に上階にある展望回廊まで足を運ぶ。
「わあ、もう建物も車もミニチュアだね」
「こえぇ、吸い込まれそう」
雪野と鳴海が住む街はそれ程広くない。
故に知り合いと出くわす可能性が高く、外デートが難しい。
東京は鳴海の故郷だが、あまりにも人が多すぎる。
地元でない限りは、知人に出会うことも皆無。
恋人のデートスポットで、普通に一緒に歩けることが雪野はとても嬉しかった。
「メグ、なんか機嫌よさそう」
「えっ」
「ずっとヘラヘラしてる」
「酷いなあ……ニコニコしてるって言ってよ」
「でも俺もそうだから」
景色を満喫し、スカイツリーを後にした2人。
そのまま浅草寺まで足を伸ばした。
「外国人すごいな」
「うん、テレビで見てはいたけど……」
あまりにもすごい人混みで、前を歩く鳴海とはぐれそうになる。
思わずコートを掴んで後を追う。
すると鳴海がその手をそのまま握り返してきた。
「ま、真聡っ」
「誰も見てないって。ほら、はぐれるよ」
鳴海の暖かい手の温もり。
確かに繋いだ指先は、人の波に隠れていて誰の目にも止まらない。
こうやって恋人と手をつないで外を歩けるなんて、雪野の街では考えられない。
ーー東京に来てよかった。
地下鉄と電車を乗り継いで東京駅に戻っている時。
「あれ、涼太郎?」
隣にいる鳴海がスマホを見て呟いた。
ーー樹村くん?
雪野が訝しんでいる事にまるで気付かない鳴海は電話に応答した。
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