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雪野の懸念は杞憂だったのかもしれない。
「雪野さん、飲んでますか?」
「あ、うん」
待ち合わせは、一昨日と同じ東京駅。
近くまで来ていたからと、雪野のホテルに近いダイニングバーで飲んでいる。
「ビールでいいですか? それともワインに頼みます?」
「あ、そうだね、ワイン貰おうか」
先日、あんなに黒く纏っていた攻撃的な空気がない。
きつく雪野を睨んでいた目は、鳴海を見るのと同じ優しい眼差し。
今も甲斐甲斐しく雪野の世話をしてくれている。
「俺、雪野さんともう一度話したかったんで、今日会えてすごく嬉しいです」
「ははっ……どうもありがとう」
「涼太郎! メグに顔が近いっ、離れろ」
鳴海と樹村は、結構飲んでいる。
「君たちは、明日からまた仕事だろう? そんなに飲んで大丈夫なのか?」
「俺、アルコールが残らない体質なんで全然大丈夫。大丈夫じゃないのはこいつかな」
「うるせぇ、おまえより少し弱いだけだっ」
「結局弱いじゃん」
樹村は普段着のせいか、雰囲気がだいぶ柔らかくなっている。
鳴海と話す口調も、友達のそれ。
ーー一昨日は僕の勘違いだったのかな。
それでも最後の握手が痛かったのは夢ではない。
「先ほど聞かせていただいた接客のお話、大変ためになりました」
「そう言って貰えると嬉しいが、君たちの仕事にはあまり関係だろう。偉そうに話して申し訳ないね」
「いいえ、人との接し方はどの業界、どの職種でも大切です。だからためにならない訳がありません」
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