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「真聡は諦めませんから」
「樹村くん……」
「一目惚れなんです。インターン初日に出会って。あいつ、すげぇカッコいいじゃないですか。俺のタイプを具現化した奴がこの世にいるんだって思ったんですよ。で、仲良くなって。でも、恋人いるっていうから、ああやっぱりなって一旦は諦めて。でもそれが男だなんて……、だったら俺にもチャンスがあるって思うじゃないですか、普通」
「そうだね」
雪野は鳴海が早く帰ってこないかと待ちわびた。
なぜ鳴海を好きな男から、恋人である自分が恋愛相談を受けているのだろうか。
「雪野さんって……バリネコですか?」
「えっ……」
「そんな感じですよね。でもそれで、真聡、満足してると思います?」
雪野が年甲斐もなく頬を染めているのも無視して、樹村は話し続ける。
「俺、どっちも出来ます。だから……体だったら、雪野さんより真聡を満足させられる自信あります」
樹村の発言は、雪野に衝撃を与えた。
鳴海はもともと女性としか性経験がない。
そして雪野は受け入れる方の経験のみ。
故に鳴海から抱かれる一方だった。
鳴海は受け入れる快楽を知らない。
もしそれを知ってしまったら?
「こんなこと、カレシさんの前で言うことじゃあないのは分かってます。でも、俺にもチャンスを下さい。……インターン期間中に、俺、あいつに告ります、ダメ元で」
「樹村くん……」
「悪いっ、地元のダチからの電話だった。なかなか切れなくてさあ、ごめんな」
2人の深刻な雰囲気を壊すように、鳴海が店外から元気よく戻ってきた。
しかしすぐに変な空気を察知したようだ。
「どうした? なんかあった? メグ」
「い、いや、何もないよ」
「俺、そろそろ帰ります。ここは俺が払います」
樹村が伝票を手に取り、急に立ち上がった。
「何を言ってるんだ。君はまだ学生だ。ここは僕が出すから気を遣わないでくれ」
「いえ、今日はいい話をたくさん聞かせていただいたので、俺に出させて下さい」
「お、おい。どうしたんだよ、涼太郎」
「真聡、また明日な」
樹村は雪野の制止も聞かず、足早に出口へと向かった。
「何だよ、あいつ……」
鳴海は樹村の行動が理解出来ないようだった。
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