第1章

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港区白金台の或る高級マンションの一室を一人の女性が訪れていた。女性の名は平畑圭子と言う上場企業のキャリアウーマンだった。 迎えているのは、纐纈敏郎と名乗る占術師だった。 纐纈は看板も広告や宣伝も一切せず、表札にさえ「纐纈敏郎」としか書かれてはいないが、知る人ぞ知る占術師で、口コミだけで、人々の悩みに応えるのを仕事としていた。 纐纈は難しい顔をして言った。 「平畑様、貴女の同僚である佐野明美さんと交際相手である新道誠也さんの仲を切って、新道さんの気持ちを貴女に向けて欲しいというのですね?」 「はい。そのためだったら、料金はいくらかかっても構いません。先生、お願いします。新道誠也さんを私のものにしたいのです」 「はっきり言って、あまり、お勧めはできませんよ。諦めたほうが良いと思います。呪詛で運命を変えようとすると、必ず、どこかに歪みと申しましょうか、反動が出て来るものなんです」 「それでも、構いません。あの人を私のものにできるのなら」 平畑圭子の、新道誠也に対する身勝手な恋慕の気持ちはかたかった。 「いいでしょう!それほどまでにおっしゃるなら、お引き受けします。その代わり、どうなっても、責任は持ちませんよ。いいですね?」 「はい、お願いします!」 平畑圭子はきっぱりと言いきった。 「この大都市東京に、実は知られざる陰陽道が伝えられていることは御存知ですか?」 「いいえ!」 「既に土御門家の支配を離れたその陰陽道は、東村山陰陽道と言います。今でも密かに伝えられ、土御門家からも消えた古い陰陽道の姿を留めているのです。たとえば、五芒星ですが、現在は、五行の相尅の形だと、思われております。しかし、それは誤りです。と言うより、真伝を守るために敢えて、嘘の情報を流しているのです。五行の相尅では、六芒星の説明がつかないでしょう? 五芒星の中央から、5つの角に線を引いてみて下さい。六芒星の中央から6つの角に線を引いてみて下さい。わかりますか?五芒星には「火」という字が、六芒星には「水」という字が見えてきませんか?」
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