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「二年生にはアタシから言っておくわね」
「すみませんっ!!」
さほど身長の高くないアタシが、見下ろすなんて。
駆け出した横顔は青白いが、目がくりっとした可愛い子だ。
アタシも最上級生なんだなぁ。そんな感慨を胸に、ドアを閉める。
外面を繕う時にだけは、あの学祭の経験が役に立つ。
自分じゃない誰かになればいいのだ、あの時の、作り物に戻ればいい。
アイリさんになったつもりで、これから一年、この部屋の3年生に相応しく。
はあああぁ。
食欲がない。
リビングから自室に戻り、ベッドにどさっと転がった。
お昼を逃したって、この部屋には定期的に常備食が運び込まれる。いつお嬢様が帰られても困らないように。
少しくらい貰ったって、減ったうちにも入らない。
春休みも4日を過ぎれば、自分が甘かったことを思い知る。
ソウくんが卒業したって、すぐには何も変わらない。
あの対抗心の強い、重たい愛情の持ち主は、アタシがコウを選んだことを深く怨んで、決して忘れることがなかった。
他でもない兄に負けたと思い込んで、アタシにはもう、とりつく島もなく。
仲直り、したいのに……。
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