If コウ was chosen.

5/13
前へ
/31ページ
次へ
 ブブ、ブブ、ブブ……  ふいに枕元のスマホが鳴った。  このリズム!!  一気に起き上がると、慌てて通話をオンにする。 「もしもしコウっ!?」 「おぅ、元気か」  流れてきた、低くハスキーな声。  アタシはほっと息をついた。 「元気に決まってるよ、昨日もメールしたでしょ」 「声聞いて信じた」   このスマホは、コウがプロ転向後初めての賞金で買ってくれた。  アタシの家が大変なのを知っているから、しかも、アタシの性格も知っているから。相談もなく、有無を言わさず渡された物だった。  申し訳ないことに、通話料もコウが払ってくれている。パケット代込みと教えられて、アタシは部屋にいる時、コウと頻繁にメールした。  他には、最低限しか使わない。  実家を出て自分の好きな人生を歩むコウは、親の支援を拒んでいると聞いた。 「ところで、予選どうだったの?」 「おまえ……オレのコト信用してねぇな」 「え……?  あっ、おめでとう!」 「めでたくない。当然だ」  レースの予定やら所属チームの合宿やらで、コウもなかなか忙しい。  なかなか会えない代わりのスマホだということは、アタシにだってわかってる。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加