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「ケガ、気をつけてね。しつこいかもだけど」
「ふん。しつこいな」
夏に、転倒して肋と腕を骨折した時、アタシはやっとコウの選んだ将来の危険性を理解した。
あの、背筋が凍るような、目の前が暗くなるようなショックは忘れられない。
もしまた骨折したら……それどころか、命にかかわる事故を起こせば……。
あの時とは違って今はスマホがある。なのに、根強く不安が染み付いてどうにもならない。
「……悪いな」
「うん、いいよ……。優勝してね?」
予選落ちしたらオフになるから、こっちまで会いに来てくれるはずだった。しかし本戦に残れば、春休み中は無理だろう。
約束していた日は、諦めるしかない。その「悪い」だとわかるから、胸がキュッと切なくなる。
……まぁ、元々期待してなかったしね。
予選落ちとか、ありえないもん。
高校最後の生活で、コウはアタシに、強い心を教えてくれた。
それは、距離にも何にも負けない魂の芯だ。
離れていて寂しくないと言えば嘘だけど、コウが活躍していることがアタシの支えになる。
「あ、コウ、そういえば、雑誌買って来たよ」
「……いらねぇ」
「次世代エース、世界の武士!」
あはははは!
1ヶ月程前に発売されたバイク雑誌だ。
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