第1章

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「どういう実験だったんですか?」  桜太は科学部としての好奇心から訊いた。謎の光を発する化学反応の正体は知りたい。 「どういう。何をやってたっけ?」  芳樹は思い出せずに莉音と亜塔を見た。二人は実験に関わっているから知っているはずだ。 「えっ?謎の光なんて知らないぞ。見ていたら大騒ぎしているはずだ」  なぜか亜塔は胸を張って答えた。当てにならないというのに堂々とされても困る。 「あれだろ。もう科学コンテストの締め切りに間に合わないとか言いながらやっていた実験だ。ただでさえ色々な実験を試した後で疲労困憊だっていうのに、追い込みで滅茶苦茶だったんだよ。たしかその時の亜塔は誤ってアンモニアを頭から被って大騒ぎしていた。臭かったなあ」  莉音が的確な情報を教えてくれるが、それにしては突っ込むことがある。まず亜塔は違うことで大騒ぎしていたわけだ。さらにはアンモニアを頭から被るというとんでもない事件を起こしている。一体どういう状況だったのか、二年生にはまったく解らない。 「それで、実験の内容は?」  実験中の出来事だというのは理解できたが、まったく内容がない。桜太は更なる頭痛が襲ってきた。 「何だったかな。もう忘れるくらいの出来事が多すぎてさ。そもそも俺たちが一年の時の最後の科学コンテスト参加だったし。もう変人の吹き溜まりここに極めりってな状況だったよ。大体さ、普通の実験をさせて全うできる人がいなかったし」  莉音が腕を組んで語る内容は、科学部の歴史そのものだろう。普通に実験をこなせないという辺りに、今の自分たちが七不思議をちゃんと解明していない姿が重なる。  そこで桜太はふと考えた。どうして自分は科学部を選択したのだろう。物理が好きだとはいえ部活動をする気はなかったように思う。亜塔の前の部長の口が上手かったせいだろうか。たしか、科学が好きで何か特定の分野の専門知識を持っていれば歓迎すると言われた気がする。
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