第1章

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「そうすると、その実験を再現するわけにはいかないんですね?」  肝心な部分を訊いたのは千晴だ。千晴は莉音の恋愛騒動で失恋の痛手を負ったはずだが、相手が大学教授とあって諦めたのかもう普通に莉音と接している。 「そうだな。完全に再現するのは無理だろう。そもそも複雑に色々なことが絡まっていた気がするし。けれど、何をやっていたか解れば光の謎は解けると思うよ」  千晴の片思いには一切気づかず、さらに桜太の母である菜々絵に平然と告白した莉音の答えは的確だ。いつもの常識人としての一面しかない。 「あれだ。その実験って俺がぼんっとやったヤツだろ?そんな面白いことも起きていたのか」  アンモニアと聴いてようやく思い出した亜塔の言葉は役に立たない。しかもぼんっとやったとは何をやらかしたのか。トラブルや諸事情があって科学コンテストの参加はもうないと聴いている二年生たちは甚だ不安だ。 「たぶん、どこかに記録が残っているはずだよ。資料を捨てるなんて考えられないし。松崎先生が引き継いでくれているはずだ」  カエルを水槽に戻しながら芳樹が言った。 「引き継いだって。その頃は松崎先生じゃなかったんですか?」  てっきりずっと顧問だと思っていた桜太は首を傾げた。あの変人の扱いの慣れている様子といい、この高校の先生になった時から科学部の面倒を見ていると思い込んでいたのだ。 「そうだよ。前は実験狂とも言える化学の先生だったんだよ。名前は林田侑平って言ってね、灰汁の強い人だったな。自分の研究を諦めれずに大学院に行っちゃったんだよね。二年生が知らなくて当然だよ」  莉音の説明はさらに二年生の不安を煽るものだった。実験狂なんて異名をとる先生がいたことがもう怖い。科学部の変人ベクトルは並大抵のものではない。これはもう代々顧問の先生からして変人だったのだ。吹き溜まりと呼ばれても反論できない。
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