第1章

3/176
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/176ページ
「出だしをうまく書く能力があれば、どこから読んでも次を読みたくなる文章が書けるはずだ。人間は原稿用紙に字が埋まっているだけの文を読みたいわけじゃない。読むとためになる、読むと面白いものを読みたいのさ。最初がつまらないってことは、他も面白くする技術がないってことだ。ちょっと最初を読んでつまらなかったら、才能のない人の文か自分には向いてない人の文かどちらかだよ」 「水滴の出だしどうですか?」 「『ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず、 よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたるためしなし』 鴨長明の『方丈記』、人間の考えることは、根本的に変わらない」 「いろいろな出だしを研究しないといけないですね」 「『国境の長いトンネルを抜けると雪国だった。夜の底が白くなった。』  『雪国』川端康成のが有名だ。」 「長い時間の経過が表現できていますね」 「『上野発の夜行列車降りた時から青森駅は雪の中』『津軽海峡冬景色』は同じ構成になっている。一行で長い時間を歌っている」 「『夜の底』と夜を具体的なもののように表現しているのが面白いですね」 「江戸時代の小話にこんなのがある。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!