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そこでふと立山くんの感情を抑えた声がぼそっと聞こえた。
「別々の場所に泊まるんだ。…夜には離ればなれってこと?」
「…う」
小さな、静かな声だけに胸に堪える。わたしは言葉に詰まってそっと隣の様子を伺った。
彼は表情に出さず、淡々とした声で続けた。
「そんなにいつも一緒にいられるわけじゃないのに。今回だって久しぶりだし。…でも、夜まではお前のそばにいられないんだ…」
「立山くん、そんな」
わたしは弱り果てた。俳優って困る、マジで。一体これどれくらい本気なの?
多少は演技入ってるんじゃないか、との疑いは拭えないけど…。
わたしはそっと彼のそばに寄った。こっちを見ようともしないその手を再びきゅっと握る。この人、よく知るようになると、意外に甘えっ子なんだよなぁ…。知り合って最初の頃は大人で落ち着き払ってて、クールな人だとしか思えなくて。三人兄弟の末っ子って知った時はへえ、見えない!と驚いたくらいだけど。
なんていうか、本当に親しくなると、結構な末っ子感がすごい。甘え上手っていうか。吉木さんに猫っ可愛がりされてるのも何となく頷ける。
「わたしだって立山くんと一緒にいたいよ。いたいけど…」
言葉が途切れる。何て言ったら角が立たない?やるのは困る、するのは駄目。おんなじか。でも、一緒の部屋に泊まってもいいけどしちゃ駄目っていうのも何だし…。
わたしは必死に頭を巡らせた。夜、一緒にいられるけどしなくて済む方法。例えば一晩中街を彷徨い歩く。…そりゃ、しなくて済むけど疲れるし、何といっても何だか物騒な目に遭いそうだ。
そうか、立山くんのご実家にお邪魔すれば。何回かお世話になってるけど、わたしたちの間柄はただの大学の同級生だから、いつもちゃんと別室に寝場所を用意して頂ける。…でも、前もってお願いしてるならともかく、当日急に伺って泊めていただくなんてとても出来ない。今のところ立山くんのお母様には優しくして頂いてるけど、あんまり非常識だと思われると…。将来に差し支える。
「あ」
立山くんのご実家、からふと思いついた。…そうか、逆にこういうのはどうかな?わたしは勢いよく彼に向き直った。
「ねぇ、いい機会だからさ。…いっそ、うちに来ない?」
「…うち?」
思ってもみなかった話の展開だったんだろう。立山くんが思わず、といった様子で反応した。顔を上げてこっちを見る。
「それって、お前の実家…、ってこと?」
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