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わたしは頷いた。
「うん、そう。…あんまり広くないけど、普通のマンションだから。でも、この前母親と話した時、最近旦那さんが海外出張がすごく増えたって言ってたからさ。母一人だけの時だったら割に余裕があるんじゃないかな。…どう、向こうの都合訊いてみてもいいかな?」
彼は少し緊張気味に見えた。ちょっと硬い声で尋ねてくる。
「てかそれ、なんて言って紹介するつもり?俺のこと」
「え、大学の同級生って。…だって、自分だってそうじゃん」
「あそうか…」
立山くんは思い当たったように呟いた。彼の方はとっくに家族にわたしを紹介済みだが、友達関係だった時に引き合わされたまま、今でも訂正は入ってない。特にそのことに対する不満はない。実際、彼との具体的な関係が変化したわけじゃないし。ただ二人の間の意識が変わっただけだから。
「まあ今日いきなりの話だから、向こうの都合もあるし。ちょっと連絡入れてみてもいい?」
わたしは気軽に母親の連絡先を出し、直にコールした。まだぎりぎり始業前かな。割に携帯は手許に置いとく人だから、応答してくれると思うんだけど。
…あ、出た。
「もしもし?おかーさん?」
『おう、娘。何なの朝っぱらから。珍しーね』
相も変わらぬぶっきら棒な声。肉親の気安さでわたしはいきなり用件に入った。
「ねっ、あのさ。小川さん…、じゃなくて和眞さん。最近海外が多いってったじゃん。今どう?日本にいる?」
『今?ドバイだよ、一カ月くらい。何よ急に』
「おお、よっしゃ」
わたしは電話を耳に押し当てたまま、ぐっと片手の拳を握った。これはいけるかも。
『うん、今日さ。前言ってた会社で最終面接なんだわ。終わったあとそっちで泊まってこうと思うんだけど。…どう、夜とか。そっちの家にお邪魔してもいい?」
『うお、急だな。なんも用意できないよ』
母はさすがに唸った。そりゃそうだよね、ど平日だし、彼女は普通に仕事だ。
「へーき、夜ご飯とかは外で食べてく。泊まるだけでいんだけど…、ねえ、普通に帰って来る?ちょっと紹介したい人を連れて行きたいんだけど」
『…ん?何その流れ。…彼氏ってこと?』
「んー、あの。…今はそうではない…」
隣で聞いてる本人を意識し、慌てて付け足す。
「でも、あの、すごく大事な人なので。大学の同級生なんだけど。一度引き合わせておきたいの。…だから」
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