立山くんの夢のような一日

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彼女はふん、と鼻を鳴らした。 『了解。だったら若干早めに帰って部屋片付けとくわ。ご飯食べ終わったら着く前に連絡して』 「ごめんね、急に。いつも通りでいーよ」 『いやそうは言ってもさ。あいつもしばらくいないし、家の中それなりにだれてるから。…ある程度時間潰してきてよ。じゃ、夜にね。彼氏未満の方によろしく』 ぶつりと切れた。わたしは彼の方を見遣る。 「…OKだそうです」 彼はなんとも言えない複雑な表情でわたしを見つめた。 「…てか、なんか、仲良いんだな。あんまりお前、実家帰りたがらないから、微妙な感じなのかと」 ああ、そうか。そりゃそう思われるかもね。わたしは首を傾げた。 「うーん、どうなんだろ?仲がどうとかより、本当に二人の間を邪魔したくない気持ちが強いかな。逆に、休みに帰らないからどうと思われることもないって考えてるから平気で学校に残れるのかも」 「あーなるほど…、そうか。遠慮がない間柄なんだな」 「母とはね。やっぱり旦那さんの方には結構遠慮する」 立山くんがそこで不意に言い淀んだ。 「てか、千百合。俺、お前の家の事情、まだ直接お前の口から聞いてないからな。そこんとこ意識してる?」 「え、そうだっけ?」 わたしはぽかんとした。話が通じてる感じなので、てっきり以前に説明してるかと。 「でも、知ってる様子だよね。誰かに聞いたの?」 「竹田のヤツに聞いた。お前の父親は物心ついた時にはいなくて、高校の時に母親が再婚したんだって」 ああ、竹田ね。て、そうか。わたしあんまりこの話、他人にしてない、いちいち。ちゃんと話した記憶があるの、あいつくらいかも。 「じゃ、話早いや。そういうことです」 あっさり切り上げると、彼は少し考え深げに黙った。いや、そんな深刻なことじゃないんだよ?そんな家庭、日本中いっぱいあるでしょ。 「…再婚相手の方はどんな人なんだ?」 やっぱりちょっとまだ引っかかるものがあるらしく、立山くんは重ねて尋ねてきた。わたしはその手をきゅっと握りしめて答える。 「えーとね、うちの母のことをすごく好きな人。わたしの十六歳上かな。母の一回り下」 「はあ…、そうすると、今三十…、八?」 「今年ね。母は五十」 何故かそこで立山くんはちょっと笑った。 「お母さんより瀬戸さんの方が歳上なんだな」 「はぇ。本当だ」 わたしは今更しみじみした。今までそういう風に考えたことなかったから。
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