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戦争が終り、半年しても魚は取れず、食うや食わずの生活を強いられていたとき、あの軍人さんが現れて、こう言ったそうだ。
「かよさん、自分はとんでもない事をしてしまった。
今、この海やあの島は何も生き物が住めない程汚れてしまった。
これは、アメリカが使った新型爆弾のせいだと聞いているかもしれないけど、そうじゃないんだ。
アメリカは広島を壊滅状態にしたかもしれないけど、自分はそれ以上酷い事をしてしまったんだ。
かよさんが好きだったこの海を殺してしまったのは、自分なんです。
自分らがあの島で行っていたのは毒ガス造りだったんだ。
敗戦のあとそれを隠すために海に廃棄しろと命令された。
そしたら草木は枯れ、魚達は一瞬で死んでしまい、海も島も毒で侵されみんな死んでしまった。
自分は、かよさんが海の話をしているときの笑顔が好きだった。
でも、この海は魚達が棲むことの出来ない死の海になってしまった。
すまない。
本当はもう貴方に会わせる顔がないから、もう会うまいと思っていたんですが、でもやはり、いくら謝っても償えるものじゃないけど、かよさんにだけは謝っておきたかったんだ。」
「そうだったんですか。
武彦さん、貴方が悪いわけじゃないでしょ。
あの頃は国中がおかしくなっていたんだから。」
「確かに自分ひとりが抗ったところで何も変わらなかったかもしれない。でも、3ヶ月前にあの島に調査で同行して、この海と島の惨劇をこの目で見たとき、自分の罪の重さに気付いたんだ。自分は決して許されることのない、いや、許されてはいけない事に加担していたのだと。」
武彦さんは悔しいとか申し訳ないとか無力感とかそんなものが入り交じった顔をして話したそうだ。
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